親の経験で「中学受験の学校選び」をしないほうがいい理由 10年で急変した首都圏の人気校

中曽根陽子

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中学受験での志望校を絞り込んでいく際に、保護者としての親ももちろん意見は出すことでしょう。親自身が受験の経験者だったらなおさらです。しかし、教育ジャーナリストとして受験の現場を取材し続ける中曽根陽子さんは、親の思っている以上に中学受験の環境は変化しているといいます。

ここでは中曽根陽子さんの著書『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』より、10年で偏差値が急増している学校と、志望者が集まりやすい学校の特徴に触れた一節を紹介します。

※本記事は中曽根陽子著『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社刊)より一部抜粋・編集したものです

なぜ「親が知らない学校」が人気になっているのか

自分も過去に中学受験をしたという方からよく聞くのが、「聞いたこともない学校が人気になっていて驚いた」というセリフ。

そうなのです。中学受験を取り巻く状況は大きく変化しています。学校偏差値も、昔とはガラリと変わりました。

今の受験生の親の多くが小学生だった20年ほど前は、首都圏の中学受験者数が年々増えていた時期。4科目入試が主流になりつつあった頃でしょう。きっと進学塾で相当勉強をし、受験された方が多いのではないでしょうか?受験校も、大手塾の模試の偏差値表を見ながら決めたはずです。

今、お子さんが受験をすることになって偏差値表を見ると、当時はなかった学校が偏差値表の上のほうにあったり、反対に当時は高偏差値だった学校の偏差値が下がっていたり、ずいぶん様変わりしていることに気づかれるはずです。

首都圏では開成(東京都)、麻布(東京都)、武蔵(東京都)が、関西では灘(兵庫県)、洛南(京都府)、東大寺学園(奈良県)が御三家と呼ばれているのは当時と変わりませんが、首都圏では渋谷教育学園渋谷(東京都)に合格したら、御三家を蹴ってそちらを選択したり、元は裁縫学校と呼ばれていた豊島岡女子(東京都)が今では女子御三家の桜蔭(東京都)、女子学院(東京都)と並ぶ超難関校になっていたり。

いわゆる難関校といわれる学校にも地殻変動が起きています。それ以外にも、当時はなかった学校の名前が偏差値表に出ています。図は過去10年で偏差値が10以上上がった学校の中を抜粋・抽出したものです。

たとえば、開智日本橋学園(東京都)、広尾学園(東京都)、三田国際(東京都)などがそれです。いずれも今では人気校ですが、開智日本橋は元は日本橋女学館、広尾学園は元は純心女子学園、三田国際は元は戸板中学校。それぞれ伝統女子校が共学化して校名を変更し、進学校として生まれ変わった学校なのです。

いずれも21世紀型教育を標榜し、グローバル化する時代の流れと、わが子をニューエリート(新しい価値を生み出し世界を変える人たち)にしたいと期待する保護者のニーズをつかんで生徒を集めることに成功している学校です。

また、伝統校が教育改革を行った結果、人気が出たという例もあります。

自分が受験をした経験があるとなおさら、そのときの感覚や価値観で学校を見てしまいがちですが、聞いたこともない学校や昔はそんなに難しくなかった学校が、人気になっているのには、それなりの理由があります。

昔を知っている方ほど、いったんその先入観を捨てて学校を見る必要があるでしょう。

また、中学受験に対する親の意識もかなり変わってきています。受験児童を持つ親の意識は、今、大きく次の3つに分けられるといえるでしょう。

1 従来通り、4年生からしっかり進学塾に通って4科目受験で難関校を目指す層
2 塾には通っているが、偏差値重視ではなくわが子に合った学校を選びたいという層
3 習い事などを並行して続けながら、公立中高一貫校との併願や2科目受験と新タイプ入試を活用して中学受験をする。あるいは、志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っている「ライトな受験」をする層

首都圏模試センターの北一成取締役によると、昨今の中学受験者数を押し上げているボリュームゾーンは2で、3も増えているとのこと。そんな動向を反映するように、昨今、中堅校といわれる中学の受験者数が増えているのです。

私の周りでも、初めから2の考え方をする人が多くなっている印象ですが、中には1で受験を始めたけれど、塾の課題をこなせず成績が伸び悩み、途中で2のパターンに変わっていくご家庭も多いです。受験する側の意識も大きく変わってきているのが、昨今の中学受験の特徴といえます。

志望者が増えている学校「3つの共通点」

ここ数年、志望者が増えている学校の特徴を表すキーワードとして、次の3つがあげられます。それは、「グローバル・探究・STEAM教育」です。

1 グローバル

グローバルとは、単に英語教育のことを指すのではなく、「グローバルな視点で物事を見て考える力を養う教育」のことをいいます。

具体的には、

・留学や海外研修制度が充実している
・海外大学進学への道が開かれていたり、国際バカロレア教育(国際的な教育プログラム)を行っている
・日本の高校だけでなく、海外の高校卒業資格も同時に取れるカリキュラム(ダブルディプロマ)を持っているなど、

さまざまな取り組みが見られます。

国際系といわれる学校では、インターナショナルスクールを併設していたり、英語で他教科を学ぶ国際クラスを設けていたりするところもあります。全員がその教育を受けられるわけではないところもあるので、注意は必要ですが、これらの学校は既存の教育に疑問を持ち、グローバル社会を念頭においた新しい教育に関心を持つ家庭をターゲットにしています。

2探究

新学習指導要領でも「探究」という言葉が俄然クローズアップされるようになりました。

中学校では、「総合的な学習の時間」が、高校では「総合的な探究の時間」が設けられています。どこの学校も探究というキーワードを使うようになりましたから、より具体的にどんな活動をしているのか、踏み込んでみる必要がありますね。学校によって取り組みはさまざまですが、

・行政や企業と組んでそれぞれの課題を解決するためのプロジェクトを動かす
・個人の興味関心を元に長期にわたって研究を行い、論文にまとめて発表する
・修学旅行の行き先を検討、実施、振り返るところまで生徒主体で行う
・行事の運営を一つのプロジェクト活動と捉え、生徒に主体的に取り組ませる

などがよく見られる取り組みです。

もちろんこれも探究ですが、総合の時間だけでなく、教科の枠を超えて生徒自らが課題を見つけて設定し、横断的かつ総合的な学習を行う学校もあります。

3 STEAM教育

STEAMとは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Arts)・数学(Mathematics)の頭文字をとったもの。

文部科学省のホームページでは、STEAM教育とは「文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、さまざまな情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成」を目的としたもの、と説明されています。

日本では理系人材が不足しているといわれています。国も生き残りをかけ、技術革新を担う人材を育てるため、全国にDXハイスクールを設置するなど、STEAM教育に力を入れようとしているのです。

最近の動向としては、芝浦工業大学附属中(東京都)、東京電機大学中学校(東京都)、東京都市大学付属中学校(東京都)などが、中堅校の中で理系進学に強い学校として受験生を増やしています。

理系の勉強が好きというお子さんなら、実験室の設備やその使われ方、またDXの分野に関する取り組みなども注目されるといいでしょう。この3つが今の教育のトレンドですが、「新しいことをやるからいい学校」というわけではありません。時代の変化を見ながら、自分たちのビジョンを明確に持ち、その実現のために何をするかを具体的に打ち出し、実行できている学校は本物です。

キラキラしたワードに飾られたブランドではなく、その中身を見極める目を持つことが必要でしょう。

<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格

『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(中曽根陽子 著/青春出版社 刊)

中学受験取材歴20年の著者が子どもの中学受験を最高の経験にし、合格も勝ちとる「受験軸必勝法」をお伝えします。もちろん、最新の塾選び・学校選び情報も網羅。受験軸可視化シート、塾分析マトリクス、学校分析マトリクス、学校検討チェックシートなど、すぐに使えるツールも多数掲載!

 

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